有り余る自由の時間を第二の人生においてお持ちの方であれば、それぞれに自分がしたかったことを思う存分されていらっしゃるかもしれません。しかし中には、これといってしたことがないとお悩みの方も少なからずいらっしゃるようです。
そこで今回はそんな方に向けて、ちょっとした切っ掛けをお持ちになるだけでも、趣味の世界を広げることができるといった提案をさせていただければと思います。
ということで今回は趣味を広げるための切っ掛けに「歴史小説」を例に上げてお話をさせていただければと思います。
「なんで歴史小説?」と思われるでしょうか。
歴史小説を書くためには、多くの調査が必要となり、そこには資料の収集から取材、そして旅をも織り込むことができるからです。
主人公の設定から広がる世界
歴史小説であるわけなので、歴史上の人物を主人公に設定する必要がありそうです。ただしこれは実在人物のみならず架空の人物であっても可能であるはずです。とりあえずおおよその構想でよいので、主人公を設定したいものです。
さて、主人公はどの時代の人物でしょうか。また、ある場面における主人公の年齢はいくつでしょうか。さらには、どこで何をやって生活をしている人物でしょうか。
とりあえずではあるものの主人公の設定が定まれば、早速調べなければならないことが山のようにできるものです。とはいえ、これだけではイメージしにくいはずです。そこである時代を設定することで、その後に広がる趣味の世界をシミュレーションしていくことにしましょう。
たとえば明暦3年(1657年)の世界へ
「歴史小説」といった切っ掛けから、日本の歴史を振り返るならば、記憶の中にも様々な年表を描くことができるかもしれません。しかしそんな中、日本史の中でたとえば明暦の大火についてふと思い出すことができたとします。
明暦の大火とは、明暦3年、つまり今から360年程前において当時の江戸の大半を焼いた大火災です。明暦の大火によって失われた数は数万人にも及ぶとされていますが、これによって運命を大きく翻弄された江戸の町民は数多くいたはずです。
明暦の大火に翻弄された若者を題材とする
そこで、この大火からの復旧に貢献した一人の若者を題材として、その人間の生涯を小説にしようとの考えに至ったとしましょう。
ところが、あなたは明暦の時代がどのように展開していくのか、また、当時の歴史的背景がどのようなものであったのかについての知識がなかったとします。
しかしこれでは、小説を成立させることができないはずです。このため、どの様な時代であり、その中で主人公がどのような人生を歩み、大火に遭遇したのかを調べる必要があることでしょう。さらには、大火の後に、主人公がどのような人生を歩み、いつ没したのかといった流れを追いかける必要があるはずです。
仮にこの主人公が明暦の大火において27歳であったなら、彼が誕生したのは1630年ということになります。彼の成り立ちを鮮明にするには、この両親の歴史についても語られる必要があるかもしれません。
明暦の大火の火元にある諸説
切っ掛けが明暦の大火である場合、大火自体について、まずは詳細に調べる必要があるはずです。
明暦の大火の火元としては、本妙寺失火説、幕府放火説、本妙寺火元引受説など諸説があるようです。そしてこれらの説が語られるのには、それなりの理由が存在するものです。
よって本妙寺に関する情報を調べる必要性が生じてくるはずです。また、できれば実際に本妙寺を訪ねて、明暦の大火に関する情報を得ることも必要となるかもしれません。明暦の大火について著された小泉八雲の小説を紐解く必要も生じることでしょう。
当時の時代背景を鮮明にする必要性
年表に明暦の大火を加えるだけなら、発生年月日に加えて「明暦の大火」と記せばよいわけですが、実際にこの時代を背景とした小説にするためには、当時の時代背景を鮮明に描いていく必要があります。
1600年代といえば江戸時代の初期といえます。1603年に徳川家康が伏見城で征夷大将軍の宣下を受け江戸幕府を開くことにより、この時代が幕を開けることになりました。
江戸時代初期をざっと追いかけてみても、1609年琉球侵攻、1611年慶長三陸地震、1614年から1615年には大坂冬の陣、大阪夏の陣により豊臣氏が滅びます。
主人公が誕生する前年の1629年には朝幕間の対立として紫衣事件が発生しています。これが当時の町民に対してどのような影響を及ぼしたのかも気にかかるところです。
また、主人公の幼少期は、江戸幕府によってポルトガル人のトライを禁じたり、オランダ人を長崎出島に移すなどの鎖国の完成に向けた時代でもありました。この当時の日本において、一部ではありながら、海外の文化が流入してきていたことは、主人公にも何らかの影響を与えていたかもしれません。
明暦の大火が発生した1657年は、徳川綱吉が江戸幕府の第5世代将軍を務めています。この当時やそれ以降の江戸時代を鮮明に描けるだけの知識も吸収しておくことが不可避ともなりそうです。
当時の生活水準や物価水準、江戸の人々の娯楽や主な仕事、食生活、遊びなどについても様々な情報を得ておく必要があるはずです。
思いつきを起点として広がる研究の道
あくまでも一例としてご紹介したに過ぎませんが、明暦の大火を起点として、その時代に生きた主人公を想定しただけでも、江戸時代初期の時代の流れを追いかける必要が生じました。
筆者自身、歴史にはまったく知識がないために、少々説明に無理があったかもしれませんが、たった一つの事件を中心として、主人公の設定をしただけでも、その時代背景において知るべきことが末広がることをご理解いただけたかもしれません。
あくまでも目的は、時代小説の執筆であるわけですが、それに至るまでには、多くの調査が必要となります。しかしこれこそが、第二の人生を充実したものへと変える切っ掛けとなりうるかもしれません。
江戸時代前期を舞台とした小説を読み漁る
江戸時代前期を舞台にした小説は数多く出版されています。たとえば、巌流 、柳生魔斬刀、太閤の城などは江戸時代前期を舞台とした作品でしょうか。また、芭蕉隠密伝、蕭々十三年などは、、明暦の大火に近い作品といえそうです。
明暦の大火を中心とした時代小説を書こう思い立った瞬間から、これまでまったく興味を持つことがなかったこれらの作品が輝いて見えるかもしれません。
作家によって描かれる世界観に相違が生じているかもしれません。しかし当時の生活や風習などを自然にイメージできる素材としては十分有効な資料となりうるはずです。
キーとなった明暦の大火の資料を漁る
明暦の大火は、先にもご紹介したように今から360年程前の出来事であるわけですが、小説のキーとなっているわけですから、これについて詳細に調べを進める必要がありそうです。
「そんな昔の資料があるの?」と思われますでしょうか。
ちなみに明暦の大火については「むさしあぶみ」に記されています。「むさしあぶみ」は、浅井了意による仮名草子として文献が残されています。この資料、ご覧になりたいとは思われませんでしょうか。
「むさしあぶみ」は、デジタルライブラリーとして古典データベースにも登録されており、インターネットで参照することができます。また、「むさしあぶみ」は、現代語訳もされており、これもまたインターネットを漁ることで見つけ出すことができます。
同様に関連する資料の多くを、インターネットを用いることで漁ることもできるわけです。
舞台となった地へと足を運ぶ
インターネットにおいて様々な資料からの知識を深めると、実際にその現場へと足を運ぶ必要性に迫られることでしょう。
明暦の大火は、本郷、小石川、麹町の3箇所から連続的に発生したとの説もありますが、まず本郷丸山の本妙寺より出火した説が有力です。このため、本妙寺には少なくとも足を運びたいものです。既に360年が経過しているわけですが、この地を訪れることで、大火はよりリアルなものとなってくれるはずだからです。
ちなみに本妙寺は、東京都豊島区巣鴨5丁目にあります。また、本妙寺には明暦の大火供養塔があります。
これまではまったく知識がなかったとしても、ここまで理解を深めた方であれば、その地を訪れる価値は大きく高まることになるはずです。同様に、関連する地域を訪れることを考えれば、それはきっと単なる東京巡りとは異なる興奮を覚えるものとなるようには思われませんでしょうか。
江戸を中心とした郷土資料を漁る
江戸初期についての知識をさらに深めたり資料を集めるためには、東京周辺の郷土資料館を漁る必要もあるかもしれません。また、たとえば東京国立博物館に足を運ぶ必要性に迫られることがあるかもしれません。
ストーリーの展開により広範囲の旅へ発展
資料を収集することで、訪れるべき地はさらに広がる可能性もあります。たとえば、江戸時代初期は鎖国完成がなされた時代でもあるわけなので、ストーリーの展開によっては長崎の地を訪れる必要もあるかもしれません。
このように、ひとつのことを起点として、多方面へと足を運ぶ必要に迫られることになる可能性があります。しかしこれらは、単なる旅とは異なる輝きを秘めることになることをイメージしていただけるはずです。
まとめ
シニア世代以降、第二の人生において、有り余る自由の時間を過ごすことができる環境に生きることができるのは、現在では恵まれた環境といえるかもしれません。しかし、このような境遇の方の中には「時間を持て余してしまう」という方も少なくないものです。
今回は「歴史小説」という題材から、「明暦の大火」を中心として主人公の生涯を展開させていくことを例にお話を進めてきました。
ひとつの事件によって翻弄されていくことになった人は、その時代に必ず存在していたことでしょう。そのひとつの人生を題材とした小説を執筆しようと思い立っただけで、それから以降、しなければならないことが数多く発生することになりました。
また、その発展の中には、実際に足を運ぶ必要のある地が複数派生していくことから、目的を持った旅をすることもあることでしょう。
明暦の大火は、あくまでも一例にすぎませんが、同様にご興味の有る時代について、それを小説としてまとめることを考えられただけでも、これまでの例のようにすべきことが増えていくことをご理解いただけたかと思います。
人生にはその時々に目的が必要となるものです。目的を失ってしまうと、それ以降、生きる楽しみを味わうことが難しくなることもあります。よって、何らかの発想を起点として、自らの目的を設定することで、失ってしまった人生の輝きを、今一度呼び起こしてみるのも選択肢のひとつとしてご記憶に留めておいていただければと考えています。
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